『企業と人材』2024年7月号レポ|松尾睦先生に学ぶ「経験学習」ー現場で活かす実践のヒント

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こんにちは、くすだです。

2025年度3月号の『企業と人材』(産労総合研究所)より、ブログでの要約レポを始めました。
企業に属さずフリーで活動している私にとって、こうした専門情報誌で最新のトレンドに触れることは非常に重要だと改めて実感しています。

この機会を「読んで終わり」にせず、学びを整理しながら共有していくために、今後は定期的にブログへまとめていきたいと思います。

前回は『企業と人材』2025年6月号より、JILPTの「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」についての記事をまとめました。

今回は1年前の記事になりますが、『企業と人材』2024年7月号より、経験学習研究の第一人者である松尾睦先生のインタビュー記事を取り上げます。

記事タイトル

経験学習の理論と実践~インタビュー
青山学院大学経営学部 教授 松尾睦氏
(インタビュアー:三井物産人材開発株式会社 人材開発部長 佐々木孝仁氏)

■記事の要約

1.松尾先生が経験学習研究を育成分野へと広げていった経緯

  • もともとは製薬会社の営業職
  • 一度社会に出てから大学院に入り、大学の研究者となる
  • 営業職の知識やスキル、信念について研究していた
  • 当時神戸大学にいた金井壽宏先生のリーダーシップ開発における「一皮むける経験」という考え方を知り、「経験学習」に興味を持ち始める
  • 調査・研究の過程で、営業の経験が理論で説明できることが分かった
  • 他の職種についても調べていく中で、「営業」ではなく「経験」へと興味が移った
  • 研究を育成分野へと広げていったのは、ダイヤモンド社の方から「経験学習を活用したOJT診断ツール」作成への協力を相談されたのがきっかけ
  • 「育成」や「診断」には興味がなかったが、「失敗してもいいなら・・」といってはじめたところ、面白い調査・分析結果が出た
  • 人材育成と経験学習が密接に関係していることがわかった

2.松尾先生が提唱する「経験から学ぶ力」

  • 「経験学習」は、人が経験を通してどのように学んでいるかに関する理論
  • 「経験」「振り返り」「概念化」「応用」の4ステップからなるコルブの「経験学習サイクル」が有名
  • 松尾先生が提唱するのは、5つの「経験から学ぶ力」
  • 「ストレッチ(挑戦する力)」「リフレクション(振り返る力)」「エンジョイメント(楽しむ力)」の3要素と、その原動力となる2つの力「思い(仕事をするうえで大事にしていることや価値観)」「つながり(他者との関係)」
  • 診断ツールのデータ分析によって、「育て上手」の人は、部下や後輩のストレッチ力、リフレクション力、エンジョイメント力を高めながら指導していることが分かった
  • 2006年、『経験からの学習』(同文館出版)を出版

3.「経験学習」の組織での実践状況

  • 立教大学の中原淳先生や1on1ミーティングで有名な本間浩輔さんが強調したこともあって、日本企業に経験学習の考え方が浸透していった
  • 経験学習の考え方や方法は、理論としては分かりやすいが、実践となると難しい
  • 1on1ミーティングの記録データが単なる業務報告になっていて、「学び」や「教訓」にまで至らないケースが見られる
  • 経験学習サイクルを回していくことの大切さは理解できても、それを実践できている人はあまりいないのではないかと感じている

4.組織内で「経験学習」を実践していく上でのポイント

  • あまり複雑にしない方がいい
  • シンプルなルールだけ決めて、できるだけ多くの人が継続して回していけるようにする
  • 「失敗と成功の両方を振り返る」
  • 「部下との対話では7:3で部下が多く語る場にする」
  • 松尾先生おすすめの、経験学習サイクルを回すトレーニング「5分間リフレクションエクササイズ」:2人1組になって、お互いが最近経験したこと、学んだことを1分間で思い出し、1人2分間で振り返る
  • 「やってもやらなくても一緒」にならぬよう、実施したことは記録し、振り返る
  • みんなが楽しく続けられるようにする
  • 勝手に続けてくれるようになるのが理想
  • 「核」となる部分だけはしっかりと押さえて、人材開発部が仕組み化して、それを繰り返していくことで、経験学習が組織に拡大・浸透していく

5.管理職への支援

  • 管理職については、部下の経験学習を促すためには、まずは自分自身が経験学習サイクルを実践する習慣を身につけるべき
  • とはいえ、自分はできていても、他人をサポートするのは難しい
  • 管理職が定期的に集まって、自分たちのマネジメントのあり方を振り返れる場を設けることが有効
  • 「部下の経験学習をいかに支援するか」という点に焦点を当てて、管理職同士で話し合うワークショップを実施するなど
  • 管理職同士のコミュニティ内でノウハウが回っていくようになる
  • 部下の評価やキャリアに関することを1人で背負うのは大変な上、コンプライアンスやハラスメントへの関心も高まっていて制約も多いため、管理職の仕事や部下育成が楽しくなくなってしまい、若手も「管理職になりたくない症候群」に陥ってしまう 
  • 課題や悩んでいることを語り合える管理職のコミュニティが必要
  • 放っておいたら管理職同士のつながりは生まれないので、会社が仕掛けていく必要があるが、その一つが研修の場である
  • 理論を実践に落とし込んでいく時には「実験」が必要なので、人事部が実験の場となって成功例をつくってから、次は営業部門、開発部門、と少しずつ広げていく
  • 途中で取り組みが途絶えた部署があれば、続かなかった理由を考える
  • ネックになっているところをきちんと調べて改善していくことで自社なりのメソッドやモデルができていく
  • この時に大切にしたいのが「成功」に対する意識の向け方
  • うまくいっている時にもっとうまくいくやり方を考え(ドラッガー)、成功が「再現」し「拡張」することが大事
  • 経験学習サイクルの「教訓」化は、「だめだったから次どうする」という指導ばかりではなく、うまくいったことも含めて教訓とみる
  • 成功した時も必ず改善点を見つけて「どうやったらもっとうまくいくか」を考えさせる
  • 教訓を一般化・普遍化することで他のプロジェクトでも成功するヒントにする
  • ウェルビーイングの観点からも、育成でポジティブな視点をもつことは今後ますます必要になる

6.次期管理職となる中堅層(30代くらい)への支援

  • 30代中盤というと、ある程度経験も積んで新しい業務も増えてきた頃
  • これまでに培ってきた力がある
  • 仕事で大変な場面に遭遇しても簡単にはつぶれないで次に進んでいける
  • 若手の頃よりも視野が広がっている
  • 中堅層の課題は、「一皮むける」経験をどう実装していくか
  • 成長のために修羅場経験が必要となる時期はいくつかある
  • 30歳前後は「第1修羅場期」
  • 自分のスタイルが確立してくる30代は成長がいったん止まってしまう時期でもある
  • 自分の型やスタイルに固執するようになる
  • 自信のスキルを一度棚卸しして見直してみることが大切
  • AIに仕事を取られないようにするためには、リスキリングよりもアップスキリング(ある職において、より高度なスキルを身につけること)
  • 現在のAIは人を巻き込むことが苦手
  • 中堅層は、育成系・マネジメント系のアップスキリングを行うことで雇用を守れる
  • 何かを学んだり新しい経験をする時には、自分なりのゴールを設定して、「今、自分は何を鍛えているのか」を意識して取り組むことが大切(筋トレと同じ)
  • 中堅層のキャリアというと、55歳や60歳以降から逆算して考えがちだが、あまり先のゴールではなく、3年後や5年後のありたい姿をイメージして、現在の自分に不足していることは何かを考えていく
  • 多くの人は目の前の業務に精一杯で、どこか自動運転のようになっている
  • 意識して振り返りながら仕事をしている人とそうでない人では成長に差が出てくる

おわりに

今回は、『企業と人材』2024年7月号より、経験学習に関する松尾睦先生のインタビュー記事をまとめました。

自他の「経験から学ぶ力」の育て方を学ぶことのできる貴重な記事でした。

ちなみに私も、ブログやSNSを通じて「経験学習」を実践中です。

ブログ:2025年6月のふり返りと7月の目標~比企起業大学大学院5期生・楠田リエ

X:

「経験学習」だけが目的ではなく、一日一日を大切に過ごすことにもつながっています。

ところで、私が『企業と人材』を読むきっかけをいただいたのは、私がパートナー講師を務める株式会社ラーンウェルの関根雅泰さんが、2024年度の連載「研修の価値を高める これからの研修評価」を担当されていたからです。

研修評価については現在、研修講師をしながら理論と実践の両輪を回しているところです。

今後も、研修評価に関する記事は積極的に取り上げていきますが、それ以外にも、私自身が「いいな」と思った記事を、私なりの視点でご紹介してまいります。

次回もどうぞお楽しみに。

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楠田 理恵くすだ りえ

リフェクション 代表

埼玉県生まれ。
明治大学法学部卒。大学卒業後、専門商社で16年間事務職に従事。最初の10年は、総務部にて人事、労務、採用、育成、庶務等、幅広く担当。この頃、「社員の相談窓口的な存在」「新入社員のフォロー役」という立ち位置を確立していった。
出産・育休を経て復帰後は、短時間勤務で働くいわゆる「時短ワーママ」を経験。また、2人目の育休から復帰後は、働きながら心理学を学び直し、キャリアコンサルタント(国家資格)を取得。

その後、子供2人の成長に合わせた「働き方改革」を段階的に進め、2021年に起業。
現在は、フリーランスのキャリアコンサルタントとして、企業研修、若手社員の1on1面談を行っている。研修後や面談後の細やかなフォローが強み。特に若手社員の「お母さん的存在」として、精神面のフォロー役を担っている。
家族:夫、長女、長男

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