『企業と人材』2025年6月号レポ|JILPT資料から人材育成と能力開発の現状を読み解く

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こんにちは、くすだです。

2025年度3月号の『企業と人材』(産労総合研究所)より、ブログでの要約レポを始めました。
企業に属さずフリーで活動している私にとって、こうした専門情報誌で最新のトレンドに触れることは非常に重要だと改めて実感しています。

この機会を「読んで終わり」にせず、学びを整理しながら共有していくために、今後は定期的にブログへまとめていきたいと思います。

前回は『企業と人材』2025年4・5・6月号より、「哲学対話」に関する記事をまとめました。

今回は、『企業と人材』2025年6月号より、JILPTの「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」に関する記事を取り上げます。

記事タイトル

人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査
(独立行政法人労働政策研究・研修機構)

■記事の要約

1.記事の概要

独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が、人材育成と能力開発の現状と課題を把握する目的で企業と労働者に対して実施したアンケート結果の紹介。

○企業調査:従業員5人以上の企業20,000社を対象に、2024年10~11月に実施し、有効回収数6,116社(30.6%)。
○労働者調査:18~65歳の正社員及び非正社員10,000人を対象に、2024年10~11月に実施。

2.企業調査

(1)日常の業務のなかで従業員に仕事を効果的に覚えてもらうために行っている取組み(=OJT)(複数回答)

  • 仕事のやり方を実際に見せている(63.9%)
  • とにかく実践させ、経験させる(62.2%)
  • 仕事を行ううえでの心構えを示している(44.5%)
  • 身につけるべき知識や能力を示している(44.3%)

(2)OJTに対する評価

  • うまくいっている(6.8%)
  • ある程度うまくいっている(70.3%)
  • あまりうまくいっていない(20.2%)
  • うまくいっていない(1.4%)

(3)従業員の能力開発・向上を図るため、業務命令に基づき、通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練・研修(Off-JT)を実施した企業

  • 実施した(31.6%)
  • 実施しなかった(68.2%)

※規模の大きい企業ほどOff-JTを実施しているとする割合が高かった。

(4)Off-JTの内容(複数回答)

  • 仕事をするうえでの基本的な心構えやビジネスの基礎知識を習得する研修(39.5%)
  • 新規採用者、主任、課長など各階層ごとに求められる知識・技能を習得させる研修(32.7%)
  • グループディスカッション、ワークショップなどの形式でさまざまな課題について検討していく研修(29.1%)

(5)Off-JTに対する評価

  • 効果があった(22.6%)
  • ある程度効果があった(61.3%)
  • あまり効果がなかった(9.0%)
  • 効果がなかった(0.5%)

(6)人材育成・能力開発の教育投資の効果

  • 職場の生産性向上(84.8%)
  • 従業員のやる気(モチベーションの向上)(83.8%)
  • イノベーション(56.9%)
  • 技能伝承(74.3%)

※どの項目も「ある程度効果がある」との回答が一番多かった。上記は、「効果がある」と「ある程度効果がある」を足した結果を表している。

(7)人材育成・能力開発における課題(複数回答)

  • 指導する人材が不足している(33.5%)
  • 人材を育成しても辞めてしまう(32.1%)
  • 人材育成を行う時間がない(30.8%)
  • 育てがいのある人材が集まらない(29.6%)

3.労働者調査

(1)会社の人材育成・能力開発の方針は明確であるか

  • 明確である(14.1%)
  • どちらともいえない(38.6%)
  • 明確ではない(19.4%)
  • そもそも方針があるかどうかわからない(27.9%)

(2)求める人材像が明確に示されているか

  • 明確に示されている(6.8%)
  • ある程度は示されている(26.2%)
  • 部分的には示されている(25.4%)
  • ほとんど示されていない(21.2%)
  • まったく示されていない(20.4%)

(3)2023年度に会社の業務命令に基づき、通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練・研修(Off-JT)を受講した人

  • 受講した(13.7%)

※規模が大きい企業に勤める人ほど受講割合が高い。

(4)Off-JTの内容(複数回答)

  • 仕事をするうえでの基本的な心構えやビジネスの基礎知識を習得する研修(32.8%)
  • 管理・監督能力を高める研修(24.7%)
  • 新規採用者、主任、課長、部長など各階層ごとに求められる知識・技能を習得させる研修(18.9%)
  • 法務・法令順守(個人情報保護・ハラスメントなど)に関する研修(17.9%)

(5)2023年度に仕事に関わる自己啓発(自発的に行う教育訓練)を行った人

  • 行った(14.9%)

※規模が大きい企業に勤める人ほど受講割合が高い。

(6)自己啓発の内容(複数回答)

  • 仕事に関連する専門的知識(AI・IT以外)(49.8%)
  • 資格取得に必要な知識(28.4%)
  • AI・ITなどの専門知識(20.9%)
  • 語学(15.2%)

おわりに

今回は、『企業と人材』2025年6月号より、JILPTの「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」に関する記事をまとめました。

私が気になったポイントは下記の3点です。大本のJILPT資料も参照しました。

・OJTは実施していても「うまくいっている」と言い切れる企業はごく一部(6.8%)。その主な手法は「見せる」「やらせる」が中心(6割超)で、構造化や内省支援の工夫などは本記事からは見えてこない。JILPTの調査結果を確認したところ、「仕事を振り返る機会を与える」が24.3%で、企業規模別に見ると300人以上の企業で46.0%という結果だった。

・Off-JTの実施率は企業規模全体で見ると3割程度だが(31.6%)、300人以上の企業では76.1%という結果となっている(JILPT資料より)。

・人材育成と能力開発の課題として、「人手不足」「時間不足」があるなか、「人材を育成しても辞めてしまう」(32.1%)という課題は育成側の心理的な負担感増につながると思われる。

本調査は「従業員5人以上」の企業が対象となっているので、大本の資料で企業規模別に結果を確認すると、企業の規模ごとに結果に差があることが分かりました。本記事で紹介されているのは主に企業規模全体の「平均」結果なので、注意したいと思いました。

とはいえ、この調査からは日本の企業規模全体で見た時のOff-JT実施率の低さが明らかになっています。「外部の研修を受けられる企業に在籍している」ということは幸運なことなのかもしれません。

特に興味深い質問項目は、「OJTの内容」と「Off-JTの内容」です。

「OJTの内容」の中に「仕事を振り返る機会を与える」が含まれている一方で、「Off-JTの内容」の中には同内容があがっていませんでした。外部支援を活用した「中長期的なキャリア形成に関する研修」は実施しているようですが(300人以上の規模で27.9%)、1on1などの内省支援は行っているかどうかは不明でした。おそらくJILPTの今回の調査では見えてこないだけで、実施している企業はあるかと思います。ただ、JILPTの質問項目にあがらないくらい外部を活用した内省支援は珍しいケースなのかなと思いました。

また、「Off-JTの内容」が知識・技能面中心になっており、ヒューマンスキルに関する研修を実施している企業が少ないことも興味深かったです。「新規採用者、主任、課長など各階層ごとに求められる知識・技能を習得させる研修」が、300人以上の規模で70.9%である一方で、「コミュニケーション能力を高めるための研修」は、300人以上の規模で24.4%でした(ヒューマンスキルに関する研修に該当しそうな研修はそれくらいでした)。

こういった現状を踏まえ、ますます「今いただいている仕事をがんばろう!」と思った所存です。

ところで、私が『企業と人材』を読むきっかけをいただいたのは、私がパートナー講師を務める株式会社ラーンウェルの関根雅泰さんが、2024年度の連載「研修の価値を高める これからの研修評価」を担当されていたからです。

研修評価については現在、研修講師をしながら理論と実践の両輪を回しているところです。

今後も、研修評価に関する記事は積極的に取り上げていきますが、それ以外にも、私自身が「いいな」と思った記事を、私なりの視点でご紹介してまいります。

次回もどうぞお楽しみに。

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楠田 理恵くすだ りえ

リフェクション 代表

埼玉県生まれ。
明治大学法学部卒。大学卒業後、専門商社で16年間事務職に従事。最初の10年は、総務部にて人事、労務、採用、育成、庶務等、幅広く担当。この頃、「社員の相談窓口的な存在」「新入社員のフォロー役」という立ち位置を確立していった。
出産・育休を経て復帰後は、短時間勤務で働くいわゆる「時短ワーママ」を経験。また、2人目の育休から復帰後は、働きながら心理学を学び直し、キャリアコンサルタント(国家資格)を取得。

その後、子供2人の成長に合わせた「働き方改革」を段階的に進め、2021年に起業。
現在は、フリーランスのキャリアコンサルタントとして、企業研修、若手社員の1on1面談を行っている。研修後や面談後の細やかなフォローが強み。特に若手社員の「お母さん的存在」として、精神面のフォロー役を担っている。
家族:夫、長女、長男

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