Kazumaさん企画「読書会議」、6月の課題本は、田内学さんの『お金の不安という幻想』(朝日新聞出版/2025)。
読書メモ
- 本書は「4つの行動」×「2つの問い」(=計8つの問い)で構成されている。
- 1.整理する
- 2.支度する
- 3.直視する
- 4.協力する
- 1-① 焦りを生む空気からどう抜け出すのか?
- 1-②成功者を真似てもなぜうまくいかないのか?
- 2-③労働と投資、報われるのはどちらか?
- 2-④お金以外の何に頼ればいいのか?
- 3-⑤なぜ「稼ぐ人が偉い」と思われるのか?
- 3-⑥いつまでお金に支配されるのか?
- 4-⑦どうすれば仕事を減らせるのか?
- 4-⑧大人の常識はこれからも通用するのか?
1.整理する
① 焦りを生む空気からどう抜け出すのか?
- 自分だけのモノサシを持つこと。不安を煽ってくる情報に出くわしたら、「これは、誰が、何のために伝えているのか?」と自分に問いかける。
- 「価値のモノサシ」がないと、「みんな」という架空の存在に向けられた不安を自分のモノだと勘違いしてしまうかもしれない。
② 成功者を真似てもなぜうまくいかないのか?
- 情報が広まった瞬間、儲け話は成立しなくなる。つまり、本当に効力のある儲け話は、決して広まっていない。
- 「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」(江戸時代の大名・随筆家の松浦静山の『常静子剣談』より)。
- 現代の工学研究に「失敗学」という分野があるように、失敗には明確な原因がある。そこから学ぶことができる。一方で、成功には偶然性、特殊な状況、本人が自覚していない努力などが積み重なっていることも多く、成功の原因が見えにくい。
- 私たちは「真似しやすそうな成功例」を無意識に選びがちだが、「真似しやすそうな成功例」ほど成功に必要な要素が抜け落ちており、再現性が低い。
- 株式投資の利益は、「企業の財布」と「他の株主の財布」の2箇所から来ている。「企業の財布」からくるお金は、誰かの役に立った結果として生まれた報酬。(例:トヨタ株に投資→トヨタは商品を作り、顧客に提供し、利益を得る→利益の一部が投資家に還元される)
- 「誰かの役に立った報酬」の多い投資は、私たちの暮らしを支え、社会の維持や発展に貢献している。これが投資の本来あるべき姿。
- 利益の大部分が「他の投資家をあてにしたお金」である投資は、新しい価値をほとんど生みだしておらず、投資家同士でお金の奪い合いをしているのに近い。
- 株式投資・不動産投資・預金・仮想通貨から得られる利益をそれぞれ、「誰かの役に立ったことに対する報酬」「他の投資家をあてにしたお金」の2軸で切ってみると、健全な投資とギャンブルを見分けることができる。
2.支度する
③ 労働と投資、報われるのはどちらか?
- 産労総合研究所の調査によると、2024年入社組の初任給を引き上げた企業は75.6%にものぼり、若手の人材獲得競争は激しさを増している。
- リクルートワークス研究所によれば、2040年には1100万人もの労働力が不足するという。
- 深刻な人手不足が働き手の価値を急速に高め始めている。「働いて稼ぐ力」を着実に育てることによって、人生を現実的に好転させられる時代が来ている。
- 人手不足の影響については14世紀のペスト流行後のヨーロッパで起きたパラダイムシフトが参考になる。
- 労働が報われる時代が来ているのとともに、AIの発達の波も迫っている。「人の仕事とは何だろうか?」という根源的な問いと向き合う必要がある。
- AIは、与えられた問題を解くことには極めて優れているが、解くべき問題を見つけ出すのは人間の方が得意。(自動車会社フォードの創業者、ヘンリー・フォードの「速い馬」の話が参考になる。)
- 「大きな会社に入れば安泰」という神話の崩壊により、自営業的な働き方が選べる社会になりつつある。価値を社会に提供できれば、その対価を得られる。
- 文豪・森鴎外は「しごと」という言葉を「仕える事」(仕事)ではなく、自ら主体的に「為る事」(為事)と書いた。本来、働くこととは、誰かに仕えるのではなく、自分の力で価値を生み出すこと。
④ お金以外の何に頼ればいいのか?
- 経済学の父アダム・スミスは、貨幣経済を動かす原動力は、自分の利益を追求する「利己心」だと説いた。「楽に暮らしたい」「儲けたい」という行動が、結果的に誰かの役に立つ。これがいわゆる「見えざる手」である。
- 知らない人同士の壮大な協力を可能にするのがお金という道具であり、一人ひとりの利己心という原動力である。
- 誰かに協力するとき、動機は2つある。一つは愛(身近な人を助けたい、喜ばせたいという気持ち。他人のため)。もう一つは利己心(自分の利益を追求する気持ち。自分のため)。
- 現代社会では、暮らしを支えるのは「家族の愛」か「お金の力」の二択になりがち。かつての日本では、暮らしを支える中心には「仲間」がいた。
- かつては日本各地で、農作業から冠婚葬祭まで日常的に助け合いが行われていた。職場と住居が一体化しており、隣人は仕事仲間でもあり生活を共にする仲間でもあった。こうした助け合いには「互酬性」(人類学者マルセル・モース)と呼ばれる義務的な面もあり、断れば孤立する恐れもあった(しがらみ)。純粋な善意だけでなく、自分の暮らしを守るための利己心も働いていた。近代化が進むにつれ、仲間よりもお金を頼る生き方が主流になった。
- 終身雇用が一般的だった時代には、職場に「村」ができ、社員旅行や運動会が頻繁にあり、上司が部下の見合い相手を紹介することも珍しくなかった。終身雇用が崩れ始めた今は、社員旅行に誘えばパワハラ、見合い話をすればセクハラになりかねない。職場の人間関係は希薄化し、頼れる仲間は減り、「何ても自分でできる人」を目指さざるを得なくなった。
- 頼る仲間がいなくて大変なら、新しく作ればいい。村社会のような義務やしがらみではなく、自らの意思で仲間を選べる時代が来た。
3.直視する
⑤ なぜ「稼ぐ人が偉い」と思われるのか?
- お金が社会を支えているという幻想がある。社会を支えているのはお金ではなく、一人ひとりの働きである。
- お金の価値を支えているのは、働き手の存在。「富を生むのは労働だ」(アダム・スミス)、「貨幣は富ではない」(アリストテレス)という言葉は本質をついている。
- バスの運転手、教員、介護の担い手など、生活に欠かせない分野で軒並み人手不足が深刻。仕事の重要性と年収が必ずしも一致しないという構造的な歪みがある。
- 老後への不安が高まるほど、人々は稼げる仕事へと流れていく。「お金を稼ぐ人が偉い」という空気が、その流れを加速させる。
- リクルートワークス研究所が2023年に発表した『未来予測2040』は、2040年の日本社会では、深刻な労働者不足によって社会インフラのあらゆる分野で崩壊のリスクがあると警告している。
- リクルートワークス研究所と協力して取材を行った朝日新聞取材班の『8がけ社会』には、2040年には生活の基盤そのものが崩れているかもしれないという現実が図示されている。
- 女性の社会進出によって働き手の数の底上げはされてきたものの、家事や育児などの「無償労働」の存在が見落とされている。
- 「もっと女性に働いてもらう」と言う前に、すでに多くの女性が「働いている」事実に目を向けるべき。
- ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」では、「愛情の搾取に断固として反対します」というセリフとともに専業主婦の適正給料も話題になった(2011年のデータによると、専業主婦の年収445万円になる)。
- 「お金を稼ぐ人が偉い」という価値観が変わらない限り、家事や育児という人間社会を支える根幹の仕事は、正当に評価されないままになってしまう。
- 「お金を稼ぐ人が偉い」という価値観の延長線上で少子化が加速し、深刻な労働者不足が起きている。それは物価高騰や円安とも関係している。
- 人口構造という国全体で取り組むべき問題が、個人の資産形成で解決する問題にすり替えられてしまった。少子化や人手不足への対応は後回しにされ、「老後資金の不安」を煽り、「お金さえあれば」という風潮を強めている。
⑥ いつまでお金に支配されるのか?
- 経済活動ーつまり私たちの生活にはヒト・モノ・カネの三要素が必要。それなのに、ヒトとモノは忘れられ、カネばかりに注目が集まる。
- 私たちは常に自分たちを縛る制約を中心に考えて行動している(制約は、お金や健康など人によってさまざま。)
- これまではカネが制約となる時代だった。ヒトとモノは十分にあったから。今、その制約が大きく変わろうとしている。
4.協力する
⑦ どうすれば仕事を減らせるのか?
- 人手不足が深刻化する時代に仕事を減らせなければ、忙しさだけが増え、生活の豊かさからは遠ざかる。
- 給料が増えても、物価高に追いつけなければ生活は苦しくなる。
- 技術革新や機械化によって、少人数でも効率的に作れるようになれば、物の値段を下げることができる。
- 私たちの暮らしの豊かになってきたのは、仕事を減らすことが出発点になっている。
- 効率化や新しい価値を生む「挑戦」にお金が流れることが、本当の意味での投資になる。
- 「挑戦したい人」にお金を融通することが、金融の本来の役割。
- 投資される側になる勇気さえあれば、チャンスはどこにでもある。
- 「守るものを手放す勇気」も必要。
- 社会の成長は嬉しいが、自分の取り分が減るのは困る、という不安が守りへと駆り立てる。そこから、奪い合いの空気が生まれてしまう
- 奪い合うのではなく、分かち合う。不満をぶつける敵を見つけるより、不安を共有できる味方を探す。
⑧ 大人の常識はこれからも通用するのか?
- 「大人になってから身につけた常識」と「子供の頃に感じた素直な直感」との間にある葛藤に気づくことが重要。
- 何かが本当に動き始めるのは、挑戦を始めた人を「見守る人たち」の心の中にも変化が起きた時。
読後メモ
- 「お金の不安という幻想」、タイトルの意味は読み終えた後に分かる。
- 著者の田内学さんは元ゴールドマン・サックスの金融トレーダーでお金に関するスゴイ人だけど、この本は「お金の不安を解消するために、お金の増やし方を教えましょう」という本ではない。
- とはいえ全くお金の増やし方のヒントが書かれていないわけではなく、さりげなくヒントが散りばめられており、別途メモメモ。
- この本は、少子化、人手不足、物価高、円安…という現状、そして未来をどう生き抜いていくか?という問いに対して、「個人の資産形成」よりももっと広い視野で答えてくれている。
- (ただし、個人の資産形成を否定しているわけではない。)
- 手前味噌だが、子育てや人材育成に重きを置く生き方を選んだ自分は、結構時代の流れに乗っているのでは、と思った。
- 少子化、人手不足、物価高、円安…という現状、そして今後も続くであろう未来は、これまでだったら考えられないような価値観や手法が現れるのではないか(あれこれ妄想)。今、じわじわとその転換期が来ているのを感じる。
読書会議
林さん、金井さん、Sさん、ありがとうございました!
台風が来ていても、小さいお子さんがいても集まれる、ありがたい時代に感謝。

こちらの読書会議には、2026年3月から参加させていただいています。毎回、本を介して子育てやAIなどに話が広がり、なんとも楽しい場。
ラーンウェル 関根さんのブログより。↓
Kazuma企画「読書会議(36)」に参加しました。 | 学び上手は、教え上手 | 株式会社ラーンウェル
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Kazuma企画「読書会議(34)」に参加しました。 | 学び上手は、教え上手 | 株式会社ラーンウェル
『お金の不安という幻想』田内学(朝日新聞出版/2025)
読書会議(Kazumaさん企画)2026年6月 課題本
