渡辺三枝子/著『新版カウンセリング心理学』(ナカニシヤ出版)を読んでいます。
大変参考になるので、自身の学びのためにも、一部抜粋してメモとして残します。
前回のブログでは、「第5章 カウンセラーに必要な基本的態度と能力」の中から、「1 カウンセラーに不可欠の条件」と「2 カウンセラーに必要な基本的態度」についてご紹介しました。
今回はその続きとして、「3 カウンセラーに不可欠の技能」「4 カウンセラーに求められる個人特性(行動特性)」について一部抜粋という形でご紹介します。
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目次より
第5章 カウンセラーに必要な基本的態度と能力
1 カウンセラーに不可欠の条件
2 カウンセラーに必要な基本的態度
3 カウンセラーに不可欠の技能
4 カウンセラーに求められる個人特性(行動特性)
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第5章 カウンセラーに必要な基本的態度と能力
3 カウンセラーに不可欠の技能
(1)言語的コミュニケーションの技能
・カウンセラーが習得すべき言語的コミュニケーションの技能は、社交的な会話術とか上手な話し方、説得力ある話術などと同じではない。カウンセラーは、相手が表現したいことや表現しにくいことを安心して表現できるようにすること、自分が相手を理解していることを伝えること、伝えるべきことを相手が理解できるように伝えられること、そして相手の自己理解や意思決定に役立つさまざまな援助行動をするためのコミュニケーションである。
・経験の浅いカウンセラーは、よく「何を言うべきか、何を言うべきでないか」などのようなコミュニケーション成功のハウ・ツーを求めがちである。そしてハウ・ツーがわかれば、うまくゆくと考えやすい。しかし、カウンセリング面接を分析した研究結果によると、有能なカウンセラーは多種多様の話し方や反応の仕方をしており、どのクライエントに対しても共通して用いている応対方法というものは見出されなかった。
・また、あるカウンセラーに特有の方法や様式が他の人に有効だとは言えない。クライエント同様カウンセラーも、皆それぞれ独自性を有する固有な存在だからである。
(2)傾聴する力
・つまり、一般に、欧米では他人の話に耳を傾けるよりも自分から話すことに主眼がおかれている。この傾向はカウンセラーにもクライエントにも共通していることである。
・さらに、専門家とか援助者、教育者とかという立場にあるものは、一般に、人の話を聴くよりも自分が話す方が得意であり、回答を与えたがりがちである。この傾向は洋の東西を問わず共通していると言えよう。
・「黙して傾聴すること」が重要な能力となった由来を考えるとき、アメリカ人にとって「まず黙って聴く」ことの重要性を説く必要があったように、日本人のカウンセラーには逆に「努めて、話しかけることによって、傾聴する能力」を強調する必要があるのではないかと思われる。
・他人に自分のことを話すのがあまり得意でないクライエントにとっては、カウンセラーからの質問や問いかけ、あるいはカウンセラー自身の自己開示のほうが「黙って聴かれる」よりもはるかにコミュニケーションを発展させ、自分を語りやすくさせるかもしれない。
・アイヴィの説明からも、傾聴とは黙っていては実行されえないことは明らかであろう。よく聴くとは、よく(効果的に)話すことでもある。
(3)沈黙の取り扱い方
・「沈黙の時カウンセラーはどうすべきか」という問いに対する回答は、正しい技術についての知識よりも、沈黙しているクライエントを理解することのなかに見出されると言われている。
・沈黙がいろいろ重要なことを表現しているからといって、その意味を常に正しく捉えなければならないと思う必要はない。正しく捉えることに焦ったり不安になったりするよりも、自分がそれまで理解したことを表現してみたり、「黙ってしまわれているので、どうしたのか気になる」というふうに自己開示をしたり、あるいは沈黙している様子をみて、「黙った方がよさそうだ」と思ったら、カウンセラーも沈黙することで、クライエントが話し出すまで待ってみるという行動をとることもよい方法であろう。
(4)観察する力
・自分とクライエントとの間、また、グループ場面などでのメンバー同士の関係、およびメンバーが醸しだすグループ全体の、心理的雰囲気とその変化に気づくこと。
・観察したことを、なんらかの形で、カウンセリング・プロセスのなかでフィードバックする。
・観察するということは、疑うことではない。事実に敏感になることである。
・カウンセラーと向かい合っているクライエントが言葉と行動で表現していることに敏感になり、それらを理解しようとする態度をもつことである。
・また、観察力とは、時間とともに変化する対象を刻々と追っていける力のことである。
・人は、言葉とそれを話す時の感情の両方をもって、自分の言いたいことを表現する。両者が一致している場合もあれば、一致していない場合もある。
・観察力でもう一つ重要なことは、カウンセラー自身が自分の内的・感情的な状態と変化を観察できることである。
(5)カウンセリングを構成する力
・カウンセリングの構成とは、カウンセラーがクライエントに、カウンセリングの目標と限界、自分の方針や進め方などを理解させることである。
・カウンセラーがカウンセリングを構成する目的は、
①クライエントがカウンセラーおよびカウンセリングについて、現実的な期待をもつこと、および
②カウンセリングの方策および目標についての理解をもつこと、
を援助することによって、「クライエントがカウンセリングの方針を知り、自分がここですべきこと、期待できることと期待すべきでないことを認識し、自分の責任をとれるようになる」ためである。
4 カウンセラーに求められる個人特性(行動特性)
・アメリカ・カウンセリング学会は、カウンセラー教育のプログラムの基礎資料のなかで、「専門家としてのカウンセラーに求められるパーソナリティ特徴」を列挙し、「そのような行動がとれるかどうか」を自己評価したり、スーパーバイズすることを勧告している。これらは、要するに、いわゆる静的なパーソナリティ傾向としてではなく、求められる行動特性であり、かつ、これらはどれも発達可能な特徴として提示されている。
・その行動特性として、(※15個挙がっていたうちの、特に印象的だったものを列挙します。)
①頑固ではなく、オープン・マインドである
②「あいまいさ」に忍耐できる
⑤高度の忍耐力をもつ(わずかな変化にも気付き、変化を待つことができる)
⑥ユーモアのセンスをもつ
⑧自己受容ができる
⑨自己理解ができ、特に自分の情緒的限界を自覚している
⑩知的、論理的に問題の発見、考察、推論、解決ができる
・上に挙げた特徴が、発達し続けるものであるから、カウンセラーは専門家として、自己に気づき、自己理解を深めながら絶えずそれらを発達させるように努力することが求められている。
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今回は、渡辺三枝子/著『新版カウンセリング心理学』(ナカニシヤ出版)より、「第5章 カウンセラーに必要な基本的態度と能力」「3 カウンセラーに不可欠の技能」「4 カウンセラーに求められる個人特性(行動特性)」について、一部抜粋してご紹介しました。
さらに、上記で紹介した中で、個人的に特にこれは心に留めておきたい、という部分を再掲します。
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・アイヴィの説明からも、傾聴とは黙っていては実行されえないことは明らかであろう。よく聴くとは、よく(効果的に)話すことでもある。
・観察するということは、疑うことではない。事実に敏感になることである。
・カウンセリングの構成とは、カウンセラーがクライエントに、カウンセリングの目標と限界、自分の方針や進め方などを理解させることである。
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「第5章 カウンセラーに必要な基本的態度と能力」において、随所で強調されていたのは、第5章の導入部分にも書いてある通り、「誰にでも、どんな問題に対しても最善の対応ができる万能な技法やアプロ―チはないというのが共通した見解である」ということだったと思います。
そのことをまず理解した上で、過去の成功事例と不成功事例の研究・分析結果から導き出された共通要素、すなわちカウンセラーに必要な基本的態度と能力について学ぶことは、とても意義のあることだと感じました。
他の章についても、折を見てご紹介できればと思います。