こんにちは、くすだです。
2025年度3月号の『企業と人材』(産労総合研究所)より、ブログでの要約レポを始めました。
企業に属さずフリーで活動している私にとって、こうした専門情報誌で最新のトレンドに触れることは非常に重要だと改めて実感しています。
この機会を「読んで終わり」にせず、学びを整理しながら共有していくために、今後は定期的にブログへまとめていきたいと思います。
前回は、『企業と人材』2025年5月号より、金井重要工業株式会社の「採用活動しない採用活動」についての記事をまとめました。
今回は、『企業と人材』2025年6月号より、株式会社TKCの人材育成に関する記事を取り上げます。
記事タイトル
教育部門への配属などを通じて「学びの楽しさ」を社内に広げる
(株式会社TKC 執行役員 人事教育本部長 田中康義)
■記事の要約
1.TKCについて
- 本社:栃木県宇都宮市
- 設立:1966年10月
- 売上高:709億円(単体 2024年9月期実績)
- 従業員数:2,428人(単体 2024年9月30日現在)
- 経営理念:「自利利他(自分の本当の利益は、人の利益を図ることの中にある)」
- 事業内容:会計事務所と地方公共団体の2分野に専門特化した情報サービスの提供、税理士・会計士による「TKC全国会」の運営支援や法律情報データベースの運営、TKCシステム(財務会計システムや情報処理サービス)の提供、TASKクラウド(行政支援サービス)の提供等
2.人事教育本部について
(1)人事教育本部創設の背景
- 税理士や公認会計士など専門職へ向けた支援を中核としたビジネスモデル
- 高い専門知識のある人材の有無がサービスの品質や企業の競争力に直結
- こうした背景からTKCが重視しているのが、人材育成
- 自ら学び、周囲を支援できる「育てる人」を増やす育成力の強化に取り組んでいる
- 「育てる人を育てる」人材育成の起点となっているのが、人事教育本部(2018~)
- 育成に関する課題:①採用・教育・人事が分断されていた(例:採用担当者が入社後の育成やキャリア形成について学生にきちんと説明できない)、②職種や部門での現場教育に委ねられ、全社的な共通教育が整備されていなかった
- 人事教育本部の担当領域は、採用・教育・人事・健康
- 基本方針は「人材を採用・教育・人事の一連の流れでとらえる」
(2)人事教育本部のメンバー
- 設立当初のメンバーは田中さん1人、人事未経験、営業部門からの異動
- 田中さんは着任後約半年間は人事や労務面の運用は既存の人事部に担ってもらい、その間に社内の現状把握、人事や人材育成の勉強(200~300冊の関連書籍)
- 田中さん自身も過去に学びによって困難を打開してきた経験があった
- 現在は6~7名体制で運営
- 現場で活躍する営業などのトップ社員(支店長など一定数以上の部下をもつリーダー層)を、2年の期限で人事教育本部に配属
- 毎年10月の定期異動で実施、3人前後が配属
- 年代は30~40代が中心
- これまでの6年間で配属された社員は20人ほど
- 2年間の配属の後は基本的には元の事業本部へ配属される
(3)人事教育本部への「留学」
- 配属後は年間30~40冊程度の課題図書やセミナー・外部研修への参加、他社人事部との情報交換、社内講師としての登壇などの機会を通して人事業務を体系的に学ぶ
- 2年間の人事教育本部への異動は、いわば「留学」
- 現場での成功体験を一度リセットし、「ゼロから学ぶ」経験をしてもらうことがねらい
- 学びの楽しさを体験し、周囲に波及させていくことができる人=「育てる人」へ
- 研修の企画や登壇に対するフィードバックは厳しめ
- 配属後まず担当するのは内定者向け懇談会の運営
- 特に重視しているのは教育理論
- 学ぶテーマは広範囲のため、メンバーは「2年間しかない」という意識で取り組んでいる
- 現場から2年間人材を預かる以上、必ず成長させて戻すという覚悟をもって実施している
(4)属人化と派閥化の防止
【属人化防止の工夫】
- 2年ごとの異動の仕組み
- メンバー個人に教育テーマの「得意分野」をつくらず、すべての研修をチームで担当
- 専門家や他社人事へのヒアリング・打合せには必ず複数人で臨む
- 教育理論に基づいた研修設計
- 「しくじりリスト」などノウハウやナレッジの明文化・共有
【派閥化防止のための留意点】
- 配属者はそれまで業務上で田中さんと接点をもたない社員から指名
- 配属者同士が「卒業生」として集まる場には、田中さんはあえて顔を出さない
- 経営層の考えを近くで聞いたり、部門を超えた人脈を広げたりする機会も多いが、人事教育本部への配属経験が選抜意識を生まないように留意している
3.全社教育の体系化
(1)新入社員研修
- 人事教育本部設立後、全社教育の体系化の一環として最初に着手したのが新入社員研修のリニューアル
- 入社後2~3週間の「新入社員研修」に加え、配属後7月、9月、翌1月の「1年目社員フォロー研修」実施を行うよう見直し、入社から1年間を新人の育成期間と位置付けた
- 新入社員を「何もできない存在のように扱わない」という考え方から、7月の試用期間終了後は、「新入社員」ではなく、「1年目社員」と呼んでいる
- 入社後1年間は、採用担当者が教育についても一貫して責任を担う
- 仮に1年以内に退職者が出た場合、「採用の失敗」としてとらえる
(2)TKCの教育体系
【一律参加】
新入社員研修、1年目フォロー研修、ロジカルシンキング研修(1年目)、入社2年目・3年目研修(各2日間)、入社5年目研修(3日間)、SLⅡ・DiSC研修(新入社員・新任リーダー)、新任グループ長研修、新任部門長研修
【対象限定・選抜参加】
TKC401k継続投資教育研修、従業員満足度フィードバック勉強会(年1回)、評価者勉強会(年1回)、グループ長勉強会(構築中)、部門長勉強会(年1回)、執行委員勉強会(構築中)、OJTトレーナー研修(本人+配属部門長)、フォロワーシップ勉強会(構築中)、年俸移行研修(構築中)、女性幹部育成プログラム(大学MBAレベル)、ベテラン社員向け勉強会(年3回)、選抜幹部育成
【任意参加(構築中)】
社員内人脈を広げる企画(実践経験勉強会、SLⅡ、DiSC)、外を知る社外研修(eラーニングシステム)
4.研修転移を促す仕組み
(1)上司からの支援
- 「入社2年目研修」「入社5年目研修」等の「研修前」「研修中」「研修後」のタイミングで、上司から受講者への関与を促す(人事教育本部から上司宛に依頼メールを送信)
- 研修前:研修受講に対する期待を伝える
- 研修中:当日の業務のバックアップ、研修への集中支援
- 研修後:ふり返りや実践を促す
- 依頼メールには具体的な例文を記載したり、研修中の写真やアンケート結果を添えるなど、具体的な働きかけを行いやすいように工夫
(2)部門長からの支援
- 「入社5年目研修」では、受講者の部門長から、日頃見ていることや期待などを「手紙」で伝えてもらっている(メッセージをカードに印刷して、サプライズで渡す)
- 接する機会の少ない部門長からのメッセージは大きな学習モチベーションにつながる
- 自部署からの受講者が複数人になると部門長の負担も増すが、これまですべての受講者が手紙を受け取っている
(3)研修転移施策の影響
- 上司や部門長の関与により、受講者が学んだことを実践し、そこから手ごたえを感じることができれば、教育が現場の成果につながるものだという意識が広がる
- 成果が出てくれば、上司や部門長の負担が増えても大きな反発は生まれにくい
5.全社員対象のリーダーシップ・コミュニケーション教育
(1)コミュニケーション教育の必要性
- 年に4回、上司と部下の面談機会を設定
- 期末の9月と3月には次の半期目標を設定
- 賞与時期の6月と12月には、評価結果のフィードバック、「これから」についての対話、目標に対する軌道修正や必要に応じた支援の実施
- 面談の合間には、月1回程度の1on1実施
- 過去のヒアリングにより、上司と部下の視点の齟齬が浮き彫りになった(上司は面談を「行った」と認識、部下は「行っていない」と感じているなど)
- 齟齬の解消には、「何を伝えるか」「どう伝えるか」を理論的に学ぶ必要があると考えた
(2)コミュニケーション教育の仕組み
- SLⅡ(シチュエーショナル・リーダーシップ)やDiSC理論を、新任リーダー向けには「リーダーシップ研修」(2日間)、新入社員向けには「セルフリーダーシップ研修」(1日間)として実施
- 「実践勉強会」の開催(2022年~、全社員の約2,500人が対象、役職者とメンバー層の2階層別、オンラインで年25~30回開催、各80~100人参加)
- SLⅡ・DiSCのコーチ資格をもつ社員のファシリテーションのもと、SLⅡ理論やDiSC理論を現場で実践した結果を共有する
- 全国の様々な職種・役職の人と対話できる機会になる
- 「自分と同じように悩んでいる人がいることがわかった」「他の人の工夫が参考になる」といった気づきが生まれている
6.キャリア教育への注力
(1)進行中のキャリア支援施策
- 目標設定とフィードバックを連動させる形で、面談時期に合わせた責任者勉強会の開催
- 360度フィードバックの実施
- フォロワーシップ勉強会の開催(対象:40歳未満の非役職者)
- キャリアドックの整備
- 50歳以上のベテラン層向けキャリア支援(重点的に実施中)
(2)50歳以上のベテラン層向けキャリア支援
- 3回構成のキャリア支援プログラムを毎年実施(①マネープラン・ライフプラン、②専門家を招いたキャリア理論に関する講演、③グループワークやディスカッションを通じたふり返り)
- キャリア理論の講演には過去に青山学院大学の松尾睦教授(リスキリング)、法政大学の石山恒貴教授(ジョブ・クラフティング)が登壇、2025年は京都大学の月浦崇教授(脳の加齢と活用)が登壇予定
- 講演の受講者は毎回200人ほどで、社内からの関心が高い
- キャリアは昇格だけをゴールドにした一本道の階段ではなく、専門領域を横方向に広げる、あえて段を降りて再スタートする、など多様な形があっていい
- 役職定年や再雇用後も「活躍できる」「期待されている」と感じられる仕組みをつくっていきたい
- 若手社員のキャリア形成や定着の視点でも、ベテラン社員が頼れる存在として活躍し続ける姿を見せることは大きな意味を持つ
おわりに
今回は、『企業と人材』2025年6月号より、株式会社TKCの人材育成に関する記事をまとめました。
田中さんのことは存じ上げているので、つい熱が入りボリューミーな記事になってしまいました。
2年間という期限を決めて、全国の拠点から選ばれたリーダー層が人事教育本部へ「留学」するという仕組み。この仕組み自体がリーダー層に対する「育てる人を育てる」仕掛けになっている。教育理論と人事実務を通して「育てる人」へと成長したリーダー層が、現場に戻って育成スキルを発揮し、「育てる文化」「学ぶ楽しさ」を各拠点に根付かせていく。
この循環が、学びの組織をつくっていくのだと感じました。リーダーを「育てる人」として育成し、現場に還元するこの仕組みには、多くの企業にとってのヒントと、希望が詰まっているように思います。
ところで、私が『企業と人材』を読むきっかけをいただいたのは、私がパートナー講師を務める株式会社ラーンウェルの関根雅泰さんが、2024年度の連載「研修の価値を高める これからの研修評価」を担当されていたからです。
研修評価については現在、研修講師をしながら理論と実践の両輪を回しているところです。
今後も、研修評価に関する記事は積極的に取り上げていきますが、それ以外にも、私自身が「いいな」と思った記事を、私なりの視点でご紹介してまいります。
次回もどうぞお楽しみに。