こんにちは、くすだです。
2025年度3月号の『企業と人材』(産労総合研究所)より、ブログでの要約レポを始めました。
企業に属さずフリーで活動している私にとって、こうした専門情報誌で最新のトレンドに触れることは非常に重要だと改めて実感しています。
この機会を「読んで終わり」にせず、学びを整理しながら共有していくために、今後は定期的にブログへまとめていきたいと思います。
前回は特別版として、ちょっと過去の雑誌に遡り、『企業と人材』2024年12月号より、パーソルキャリアの「タニモク」に関する記事記事をまとめました。
今回も特別版で、いつかまとめたいと思っていた堀越さんの連載記事をご紹介。
『企業と人材』2025年4・5・6月号より、「哲学対話」に関する記事を取り上げます。
記事タイトル
個人・組織の知を創出する哲学的思考
○哲学的な問いを立てて「共通言語」をつくっていく(4月号)
○意味の似ている言葉同士を区別すること(5月号)
○言葉のなかにある複数の意味を識別する(6月号)
(東京大学 UTCP 上廣共生哲学講座 特任研究員 堀越耀介)
■記事の要約
1.「哲学対話」によって「共通言語」をつくる
(1)「積極性」とは
- 某大手製造業の課題として「社員の仕事に対する積極性」があげられていた
- 「そもそも積極性とは何か」「なぜ積極性が必要なのか」という問いを深めていくと、経営陣と現場で「積極性」という言葉の理解が大きく異なっていることが判明した・経営陣は「既定の方針に従いつつ、自発的に動くこと」を「積極性」ととらえていた
- 現場は「自分で考え、判断できること」を「積極性」ととらえていた
- この経営陣と現場のズレは、「積極性」という言葉の意味を組織のメンバー自身が根本から問い直したからこそ明らかになった
- この一連のプロセスが、「哲学対話」によって「共通言語をつくること」
(2)「顧客第一主義」とは
- ある人は「顧客の要望に応えることが最優先」と考えるかもしれない
- 別の人は「顧客のために、あえて言うべきことを言うのも重要」と解釈するかもしれない
- どちらも「顧客第一」という言葉の実情を表しているものの、相反する場合もある
- このような時こそ、哲学的な問いを立てたい
- そもそも「顧客」とは誰のことか?「第一にする」とは何をすることか?
(3)「哲学対話」の組織内での活用
- 組織として一定の方向性や大切にしたい理念を共有することの重要性は年々高まっているが、それを一方的に押しつけてもうまくいかない
- 「答え」ではなく「問い」こそが、組織における共通言語をつくるきっかけになる
- まずは「そもそも」という問いを立てることからはじめてみる
- 以下は、堀越さんが様々な企業で「哲学対話」を実施したときにあげられた問い
- そもそも、「自分事化」とはどういうことだろうか?
- 「責任がある」ことと「責任感があること」の違いは?どちらが重要だろうか?
- そもそも、「主体的」であることは、本当にいつでも重要なのだろうか?
- そもそも、「当事者意識」とは何か?「当事者である」とはどういうことか?
- 仕事に対して「積極的」であることと「自発的」であることの違いは?
- 「哲学対話」は、研修などの特別なイベントとしてだけでなく、日常の業務の中で取り入れていくこともできる
- 会議の冒頭10分で、「本題に入る前に○○とは何かを考えてみよう」という形で実施する
- 1on1の中で活用することで、部下の価値観を引き出す
2.意味の似ている言葉同士を区別する
(1)「責任感」と「使命感」
- 職場でのコミュニケーションがうまくいかない理由の一つに、「言葉の意味やイメージのズレ」がある
- 「責任感を持って働いてほしい」と言われた部下は、そのことを単に「ミスをしないように気をつけよう」と実践的な意味でとらえるかもしれない
- 一方で上司は、「自分の仕事が社会やクライアントにどのような影響を与えているのかを自覚し、自分のキャリア形成に活かしてほしい」という長期的な意味で言っている可能性がある
- このすれ違いは、「責任感」という言葉の意味やイメージが十分に共有されていないために生じる
- 「責任感とは何か」と問い直す時には、「似ているけれど異なる概念」と比較しながら区別する方法が効果的
- 例えば、「責任感」と「使命感」はどう違うのか?
- 「責任感」は「他者や状況から求められている役割を引き受け、それに応じようとする感覚」といえるかもしれない→外から与えられた役割から生じる
- 一方で、「使命感」は「自分自身が果たすべきだと強く信じる目的や意義に対してもつ感覚」といえるかもしれない→自らの内側から湧き上がってくる
- 重要なことは、辞書上の定義と一致しているか、学説として正しいかどうかではない
- 似ている言葉同士の意味の違いを皮切りに思考を深めていく、自分自身を振り返るということが目的
- 前者を「責任感A」、後者を「責任感B」と名づけるだけでも構わない
- 重要なのは区別したり比較したりすることによって思考を進めるというプロセス
- 言葉の区別が明確になることで、具体的な行動指針につなげることができるようになる
(2)言葉を区別することで得られる効果
- コミュニケーションの質の向上
- 評価基準の明確化
- 問題解決の精度向上
- イノベーションの促進
3.同じ言葉に含まれる複数の意味を識別する
(1)「新しい」がもつ複数の意味
- 「誰にとって新しいのか」という視点で複数の異なる意味に分けることができる
- 「世界にとって新しい」:人類の歴史上はじめて登場した概念、技術、製品などを指す
- 「ある社会や文化にとって新しい」:すでに他の場所では存在していても、特定の社会、産業、文化圏にとっては「はじめて」という意味での新しさ
- 「個人にとって新しい」:個人がこれまで経験したことのない何かに遭遇する際の新しさ
(2)「つくる」がもつ複数の意味
- 「ゼロからイチを生み出す」=「創造する」「発明する」
- 「既存のもの同士を組み合わせる」=「編集する」「統合する」
- 「既存のものを模倣する」=「再現する」
- 「既存のものを改良する」=「改善する」「アップデートする」
(3)意味を識別することで得られる示唆
- 「誰にとって新しいのか」を明確にすることで、アプローチの方向性が定まる
- 「ゼロイチ」だけがイノベーションではないと気づき、他のアプローチができる
おわりに
今回は、『企業と人材』2025年4・5・6月号より、「哲学対話」に関する記事をまとめました。
「哲学対話」は、特別な場だけでなく日常の中でも取り入れることができるのがいいですね。
「哲学対話」の一例としてふさわしいか分かりませんが、ごく身近なことで思い浮かんだのは、私が日常的によく使っている「すごい」という言葉。細かいことをごちゃごちゃ言わずに、相手や物事に対する賞賛や感嘆の気持ちをまずシンプルに伝えたいときに便利な言葉です。非言語コミュニケーションも使える対面でのやりとりや、軽さを出したいメッセージのやりとりで使ったりします。
ただ、あまりにも使いやすい言葉であるがゆえ、気をつけたい言葉でもあるなと感じています。
「何をもってすごいのか?」「どの立場から言っているのか?」「何かと比較して言っているのか?」、シリアスなテーマやSNSで発信をするときなどには、時にはそんな風に立ち止まって言葉を使うようにしたいなと思います。
一番手っ取り早い「哲学対話」は「自己との対話」ですが、誰かと対話しながらやるのも楽しいです。
前回の「タニモク」同様、「哲学対話」も今後やってみたいことの一つになりました。
ところで、私が『企業と人材』を読むきっかけをいただいたのは、私がパートナー講師を務める株式会社ラーンウェルの関根雅泰さんが、2024年度の連載「研修の価値を高める これからの研修評価」を担当されていたからです。
研修評価については現在、研修講師をしながら理論と実践の両輪を回しているところです。
今後も、研修評価に関する記事は積極的に取り上げていきますが、それ以外にも、私自身が「いいな」と思った記事を、私なりの視点でご紹介してまいります。
次回もどうぞお楽しみに。