- 読書会主催者:鵜飼柔美さん(桜下塾主宰/㈱生き方はたらき方ラボラトリー代表/1級キャリアコンサルティング技能士)
- 課題本:『心理カウンセリング熟練へのロードマップ:脳科学と2つの統合モデルで越える7つの壁』(杉山崇 著/誠信書房/2025)
- 読書メモ:第4章 脳科学という壁:心の痛みと生き残るための「ウマの脳」
出会ったことば
脳について学ぶ意味
- カウンセリングを行ううえで知っておきたい心と脳の法則:受容・共感は脳の興奮を鎮める。
- ロジャーズが活動していた時代の心理学では、「人間機械論」が注目されていた。人間機械論は、心理アセスメントや認知行動療法の基本原理になっている。
- 人間機械論による傾聴の考察や説明は困難だったため、ロジャーズは現象学を援用した。
- 現象学は、実体がないので観念的になりがちで、理解して使いこなすには難解。
- 一方、脳は実体がある。脳について学ぶことで、カウンセリングをより理解しやすくする。
ウマの脳
- クライエントは不安や不満、怒り、悲哀など、苦痛となる情緒体験(心の痛み)があって来談する。
- 心の痛みが生成されるのは、大脳辺縁系(情動の脳とも呼ばれる)。大脳辺縁系は、困難な環境を生き残るために脅威を感じた時に発達した。
- 脅威を感じたときに、恐怖とそれに伴う逃走反応、怒りとそれに伴う闘争反応を促すことで身を守る。その働きを身近な動物に例えて、「ウマの脳」と呼んでいる。
- ウマの脳は、恐竜時代には生き残るための強力な武器であったが、現代では、その危険信号を発する機能と不安障害やうつ病との関連が示唆されている。
- 人間が記憶力や想像力に優れた生き物になったがゆえに、脳内で想像した脅威に反応してしまうことがある。身を守る武器だったものが、逆に痛みを与えて脅かすものに転じた(感情のパラドックス)。
脳がつくり出した恐ろしい世界
- ウマの脳が敏感になると、意識を動かしてリスク探査を始める。リスクの種が見つかると、心の痛みを生み出し、意識をますますリスクに集中させる。意識が集中すると、ニューロンの塊にエネルギーが集中して活性化し、脳のプロセッサも活性化する。これが続くと、リスク関連のネットワークが拡張され、私たちの心のシアターの中では、恐ろしい世界が展開する。
- 心のシアターの中では、私たちは「現実」と「幻」の区別が難しい。
- 脳がつくり出した恐ろしい世界(=「脳がつくり出した刺激」)を、現実であるかのように体験する。
- 「恐竜時代と違って、今の私たちにとって最も恐ろしい存在は、同じ人間のようです。」
- それは自分に敵意を向ける人だけでなく、惨めな思いをしている自分自身の姿である場合もある。
ルミネーション
- ウマの脳の暴走とも言える状態を、ルミネーション(Rumination)と呼ぶ。
- (※ルミネーション:過去の出来事や失敗を繰り返し考え続ける思考パターン。)
- ルミネーションが生じている間、人は無限の心の痛みに苛まれる。
- 「私たちの体感時間は、情報処理量と不快感に比例します。」
- ルミネーションに苦しむ時間は、本人にとっては非常に長く感じる。
- うつ病に苦しむ方々は、「永遠に続くかのような心の痛み」に耐えきれなくなることがある。
- ルミネーションは、心理学研究では強度の高いものが主に研究されているが、クライエントの大半が、程度の差はあれルミネーションを抱えているというのが筆者の印象。
- ルミネ―ティブになっているということは、意識が狭い範囲から動かなくなるということ。
- 「人は視野が狭くなると、適切に考えることができません。」
- 心理カウンセリングでは、まずウマの脳に働きかけ、ルミネーションの緩和を試みる。
ウマの脳を安心させるカウンセラーの態度
- ウマの脳が見積もっているリスクの危険度を下げてあげれば、ウマの脳は鎮まり、心の痛みも緩和される。
- ウマの脳にダイレクトに働きかける方法の一つが、注目と共感(アイゼンベルガーらによる実験で検証されている)。
- 「相談した相手が自分を大切にすることでウマの脳が安心し、心の痛みが緩和する。そして、相談して良かった、という実感になりうる。」
- 私たちの共感的なリアクションや傾聴、関係構築は、クライエントの心と脳に作用する可能性がある。
- 「私たちはプロフェッショナルとして誇りに思い、同時のその責任をプロフェッショナルとして愉しみたいものでです。」
私たちが取るべき態度
- 最晩年のロジャーズが語ったカウンセラーの「存在感」。
- 「脅威に対して共闘する仲間」としてクライエントの心のシアターに映ること。
- 依存性の高いクライエントは、脅威の排除を請け負うスーパーマンのような存在を期待することもあるので、この期待の取り扱いという別の問題が伴う場合もある。
最悪な対応
- 「まだ心配しなくていいですよ」
- 「あなたが訴えていることは、何が問題なのでしょうか」
- 「私の知る限り、ご心配しているようなことはまず起こりません。」
- 「あなたが原因を作ったのではないでしょうか」
- 「万が一のことが起こったら、何ができそうでしょうか」
- 「周りの方にはもうご相談になっていますか」
本との対話
- 今回のような、「心の痛みをつくり出している時の、脳のはたらき」について学ぶことは、カウンセラーにとってはもちろん、どんな立場の人にとっても有益だと思う。「心の痛み」を感じた時、脳のはたらきを知っているだけで、その痛みの原因と少し距離をとって、落ち着いて考えることができそうだから。
- 「自分はあの時、ウマの脳が暴走していたんだろうなあ」と思い出される経験がある。あの時にこの理論を知っていたら、もっと冷静になれたのだろうか?たぶん難しかったと思う。
- 「ウマの脳」が暴走状態にあったであろう人と対峙したこともある。その時の対応も難しかった。こちらは全く悪気なく、むしろ相手のことを最大限に考えて、「最悪な対応」をしていた。
- 読書会の時、鵜飼さんとの対話の中で、『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』を思い出した。エピソード3では、アナキンがフォースの暗黒面に堕ちていく様子が描かれている。オビ=ワンはじめ、周囲の人たちがアナキンのためを思ってはたらきかけてきたことが届かない。心のシアターに映る恐ろしい世界を、アナキン自らが体現してしまった。
- 「ウマの脳を安心させるカウンセラーの態度」は、第3章までに伝えられてきたことと一貫している。今回、脳のしくみを「心の痛みの背景」として理解することができ、カウンセラーとしてやるべきことがより一段とはっきりした。
『心理カウンセリング熟練へのロードマップ:脳科学と2つの統合モデルで越える7つの壁』杉山崇(誠信書房)
読書会(鵜飼柔美さん主催)課題本
